第7回えざおの毒コレクション【ポロニウム】

〈元素毒〉
みなさんこんにちは。
今回ご紹介する“猛毒”はポロニウムです。元素マニアでなくとも名前くらいは聞いたことあるであろう猛毒元素で、過去には諜報員の暗殺にも使われた曰く付きです。

僕のコレクションからはローンレンジャー原爆指輪を載せておきます。放射性物質の危険性がよく知られていなかった昔の子供向けおもちゃで原子爆弾型のカプセルにポロニウムが入っていてスピンサリスコープ(蛍光板にアルファ線がぶつかって光る様子を観察するもの)として使われていました。今はもうほとんどポロニウムは含まれていません。


ポロニウムはキュリー夫妻が大量のウラン鉱石を化学的処理をした結果発見された原子番号84番、元素記号Poの元素です。キュリー夫人の祖国ポーランドにちなんで名付けられ、キュリー夫人はポロニウムおよびラジウムの発見によりノーベル化学賞を受賞しました。
さて、ポロニウムをはじめとして放射性物質は基本的に人間に対して強い毒性を示します。ウランやプルトニウムが代表的でしょうか。そして放射性物質を語る上で重要なベクレル(Bq)という単位、これは1秒間に崩壊する(放射線を出して他の元素に変化する)原子の個数を表す単位で、すなわち放射能の指標となるものです。ポロニウムの中で最も半減期の長い²⁰⁹Poは1gあたり166TBqとウランの65億倍強い放射能を持ちます。ポロニウムの致死量はわずか0.7~10μg未満と推定されており、青酸カリの10万倍、世界最凶のボツリヌストキシンのわずか1/10という恐ろしい毒性を持ちます。

何故これほどまでにポロニウムは強い毒性を示すのか。それはポロニウムが放つα線によって内部被曝が起こるからです。α線の正体はヘリウムの原子核で、ポロニウムはそれを放って原子番号が2減った鉛に変化します。α線自体はコピー紙1枚で防げるほど弱い放射線で外部被曝では皮膚を透過できないので一見危険性が低そうに思えますが、それが身体内部に蓄積されたポロニウムから放たれたものとなると話は別になります。電離作用(放射線のエネルギーで原子を陽イオンと電子に分解する作用)が強いα線は体の内部で着実に細胞を破壊して粘膜炎、脱毛、骨髄不全、多臓器不全を引き起こして最終的に死に至らしめます。

ポロニウムは前述の通り電離作用があるα線を放つため、レコード盤や写真にホコリが寄り付かないよう静電気を除去する装置に使用されます。このときポロニウムは金と銀の間に封入された形をとります。猛毒のポロニウムをどう閉じ込めるかというと先に金と銀の間にビスマス209を挟んで中性子線を当てることでポロニウムをin situすなわちその場でで作ります。片や猛毒である面を持ちながらも生活の役にも立っている珍しい元素と言えるでしょう。
それでは次回の“猛毒”までさよなラジカル。

えざお

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