第3回えざおの毒コレクション【アコニチン】

〈植物毒〉

みなさんこんにちは。
今回ご紹介する”猛毒”はアコニチンです。サスペンスに出てくる毒殺の凶器としては青酸カリに並ぶあのトリカブトの毒成分でもあります。いわゆるアルカロイドというやつで、定義の「生理活性が顕著な含窒素天然有機化合物」という観点からはコーヒーのカフェインや唐辛子のカプサイシンと同じ括りですがそれらとは比べ物にならないほどの毒性を有しています。

僕のコレクションからは以前に紹介した方法(第4回実験記参照)でトリカブトの塊根から抽出したアコニチンの粗結晶を載せておきます。

トリカブトは山地の樹陰や高原の草地に生息しており、兜状の花を咲かせるとこから「鳥兜」という名前が付きました。特徴的な花を咲かせれば一目で分かるのですが厄介なのが花が咲いていないとき。葉や茎だけのときは同じくキンポウゲ科で山菜のニリンソウに形がよく似ており誤食による死亡事故が起こっています。たまに混ざって生えてることもあるらしいのがタチが悪い。明確な殺意がメラメラと感じられます。
全草にアコニチン系アルカロイドを有しているという存在自体が猛毒なトリカブトですが人類にとっては矢毒として役立っています。
四大矢毒の一つにも数えられるトリカブト(他はイポー、クラーレ、ストロファンツス)は矢毒としてアイヌ民族御用達でした。というのもトリカブト毒のアコニチンは熱することで毒性が極端に弱まるため、獲物に毒が廻ったあとでも熱処理して調理さえすれば食べることができるからです。
この熱処理によって毒性が弱まるという点からトリカブトはしばしば「附子」や「烏頭」などの漢方生薬として利用され、強心作用や鎮痛作用、抹消血管拡張による血液循環に有効であるとされています。

アコニチンの致死量は2~6mg、植物体では1~2g程であり、主な中毒症状は口唇の痺れ、下痢、嘔吐、不整脈、血圧低下などで、重篤な場合は呼吸不全、心室細動、心停止が起こり死に至ります。

何故これほどまでにアコニチンは強い毒性を示すのか。それはナトリウムイオンチャネルをガンガンに開いてしまうからです。ナトリウムイオンチャネルは基本的に細胞内が電気的にマイナスになるよう膜電位を保つために開いたり閉じたり調整していますがアコニチンが無理やり開けることでナトリウムイオンが細胞内に流入します。この事象は正のフィードバックを引き起こしさらにナトリウムイオン流入が加速され、ついには細胞内が電気的にプラスになり均衡が崩れて脱分極に至ります。ゆえに神経系が正常な活動を行えずに臓器不全まっしぐらになるというわけです。

アコニチンの解毒方法は今のところ存在しません。治療としては催吐や胃洗浄が行われるそうですが手遅れになるパターンがほとんどでしょう。アコニチンはナトリウムイオンチャネルを無理やり開きますが、逆に無理やり閉じることで毒性を発揮するものがあります。フグ毒として有名なテトロドトキシンです。この相反する2つの毒を摂取すれば拮抗する作用で毒性が相殺されると思われますが実際はテトロドトキシンの方が体内で早く分解されてしまうため、いずれにせよアコニチンによって死に至ります。

アコニチンとテトロドトキシンの同時摂取は作用拮抗によって多少症状は抑えられるがいずれアコニチンが優位となり死に至る、と言いましたがこれを利用した有名なアリバイ殺人が実際に起こりました。「トリカブト保険金殺人事件」です。
ざっくりあらすじだけお話しします。犯人とその妻は沖縄旅行に行きましたが、犯人は急用を思い出したとして急遽帰宅します。犯人の帰宅道中、妻が旅行先で謎の中毒症状に襲われてしまい、病院に搬送されるも間もなく死亡してしまいます。行政解剖の結果死因は急性心筋梗塞とされました。しかし解剖医はやや不審に思い血液を保存します。そしてのちのち生命保険加入に不審な点がいくつもあったり、血液からアコニチンが検出されたことから保険金目当ての毒殺事件であることが判明、被告人側は妻と解散してからのアリバイを主張しましたが血液再検査の結果テトロドトキシンも検出され、アコニチンとテトロドトキシンの作用拮抗によるアリバイ工作が可能との点から無期懲役が決定します。しかも自宅でマウスを用いた実験を繰り返して配合を調整していたという用意周到さ。恐ろしいですね。

矢毒として人類に利益をもたらしたりはたまた毒殺の凶器として使われたり誤食者を中毒死させたりという二面性を持ち合わせているアコニチンのお話でした。
それでは次回の\"猛毒\"までさよなラジカル。

えざお

【参考文献】
[1]自然毒のリスクプロファイル-厚生労働省
[2]ストレスと自律神経の科学
[3]アコニチン(aconitine)-ChemStation

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