【世界でn番目の元素図鑑・原子番号79番金(Au)】

金、それこそが永久不滅の物質であり金属の原点にして頂点です。金より高いロジウムやオスミウムやイリジウムを目を輝かせながら追いかける人はいませんしダイヤモンドは残念ながら燃えます。しかし金はその輝かしい見た目から太陽神のシンボルであり富と栄誉の象徴で我々人類は大昔から崇め奉りました。鉄器時代?まだまだちょこざいです。青銅時代?まだまだ青二才です。金は約7000年前から利用されてきたと考えられています。金は人類が最初に手にした金属なのです。なぜ一番最初が鉄でも銅でもなく金だったのか。それはずばり「腐食しないから」です。高校の頃イオン化傾向を覚えさせられましたね。金はイオン化傾向が最も小さいつまりはイオンになりにくい元素。イオンになりにくいということは化合物を作りづらい、天然の中で複雑な組成の鉱石ではなく単体の金として存在できるからです。山や川で金のかけらを拾うことができるでしょう?そしてもう一つの理由が「軟らかい」こと。金のモース硬度は2.5と石膏よりちょっと硬いくらい。そして厚さによってはぐにゃぐにゃに曲げられる。金1gで長さ3kmの糸が、10円玉サイズなら1畳分の金箔が得られる。それほどまでに金は軟らかく融点も1064℃とそこまで高くないので当時の文明にとっては加工がしやすかったのです。おまけに非常に希少な金属ですから王家国家などで特に珍重されてきました。ツタンカーメンなんかが代表例ですね。話をなぜ金が永遠の輝きを保っていられるのかに戻しましょう。元素の性質を決めるのは電子です。原子構造を観察してみましょう。電子配置は[Xe]4f¹⁴5d¹⁰6s¹です。この羅列の意味はキセノンの電子配置を基本としてさらに4f軌道、5d軌道、6s軌道に電子が増えたことを表します。キセノンの原子番号は54。そこに計25個が増えて79ぴったり金の原子番号です。ここから、アインシュタインのかの有名な相対性理論が関係してきます。そもそもE=mc²のcは光速度定数です。金は原子核の陽電荷が大きいので一番原子核に近い1s軌道の電子の軌道運動速度は光速度の5割を超えます。ここまでくると相対論効果が無視できないので相対性理論より電子の質量が大きくなり荷電粒子の引力は強く原子核に引き付けられ1s軌道ないしは全s軌道が収縮し安定化します(ボーアモデルでは軌道周期半径は電子の質量増加に反比例するので結果的に収縮する)。逆にd軌道やf軌道は電荷のバランスを保つため外側へ拡張して不安定化します。つまりs軌道が収縮し安定化するためにイオン化エネルギーが大きくなり金の耐腐食性が説明されます。また、外へ広がろうとする(=エネルギー準位が高くなる)5d軌道とその上の6s軌道は収縮しようとする(=エネルギー準位が低くなる)ため5d軌道と6s軌道のエネルギー差が狭まりこれが可視光領域の波長短めな紫色から青色を吸収するので金は独特の黄金色に輝くのです。金が持つエネルギーが電子論的に安定で低いことがお分かりいただけたでしょうか。金がそれだけポテンシャルが低いということは化学反応を起こしにくいということです。そんな金を叩き起こせる化学薬品なんて限られていますし日常生活ではまず生まれません。腐らないし希少、資源的にも枯渇は目の先鼻の先らしいので今でも電気電子分野では金の配線が用いられ、捨てられれば都市鉱山といってスクラップにして金を回収します。同時に固定実物資産としての価値の安定性は全世界が認める共通認識。こうして金は人類に栄光と輝きを与え続ける永遠の元素となるのです。

〈アラスカ産の自然金の大型ナゲット17.9g〉


〈アラスカ産の自然金の大型ナゲット13.4g〉


〈22金(K22)製のブリタニア金貨。金の品位は24分率で表されるので22金は22/24=0.917より純金を91.7%含む合金〉


〈18金(K18)製の馬の指輪。筆者の20歳祝い品。金の品位は24分率で表されるので18金は18/24=0.75より純金を75%含む合金〉


〈アルコール中に保管された金箔。金箔は実は純金ではない〉


〈塩化金(Ⅲ)が1g入ったアンプル。金の化合物は王水に溶かしてから作られる〉


〈金の2,2\'-ビピリジン錯体。興味本位で作ったもの。質屋に行っても絶対買い取ってくれない〉


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