【空想麻薬合成】覚醒剤メタンフェタミンの合成から学ぶ有機化学

みなさんこんにちは。
マッドサイエンス足りてますか?
ご時世柄が最悪なせいで有益な裏情報は世間に淘汰されていくばかり。こんなんじゃ社会は発展していきませんし何せつまらない。
この記事を今読んでるあなたも少なからず危ノーマルな情報を求めてここに来ているはずです。ということで今回は〈空想麻薬合成〉と題しまして「麻薬や覚醒剤の作り方を有機化学を交えてサクッと教えちゃうゾッ!」というコンセプトになっております。
空想麻薬合成…もうこれの何が良いかって理論上で話が進むので法律は関係無いし、実験失敗で凹むこともないし、収率気にしなくて良いし、危険な試薬を使うこともないし、試薬の入手に困ることもないし、金もかからないと。あくまで空想での合成実験です。ただし机上の空論にならないよう現実でも一応行えそうにしてあります。実行しようと思えばできます。まあそんな根気と技術があればの話ですがね!
前置きはこれくらいにして今回の空想麻薬合成はトップバッターにふさわしい、覚醒剤の代表格メタンフェタミンくんです。
日本での検挙率はダントツ1位。そんな彼を今回合成していこうというわけです。紙面上でね?

●合成について
ぶっちゃけメタンフェタミンの合成法って相場が決まってて、フェニルアセトンとN-メチルホルムアミドと反応させることでメタンフェタミンホルムアミドを生成させ、酸加水分解することで得られるんです。大体闇市で流通してる覚醒剤はこの製法ですかね。

たったこれだけなんですけど、さらに突き詰めようとするとフェニルアセトンは、フェニル酢酸と無水酢酸をピリジン存在下で反応させると作れたり、N-メチルホルムアミドはメチルアミンとギ酸から作れたりするわけです。じゃあこれどこまで遡って根幹の化合物から合成できるんじゃって話になるんですが、僕の考えたルートだと出発原料はベンゼンです。そしてクッソ多段階合成になります。ロマンじゃありませんか?高校化学で人気者のあの美しい六角形のベンゼンくん。彼を化学的にいじって足し算引き算するだけで覚醒剤になるなんて。ベンゼンの周りを化学的にデコレーションしてあげて全く性質の違う物質に変えてしまう、これが有機化学というものです。
また余談ですが、前述の出発原料としているフェニルアセトンおよびフェニル酢酸は覚醒剤原料に指定されており、覚醒剤取締法で製造・所持が禁止されております。仮に試薬会社からコソッと入手できたとしても怪しまれるでしょう。しかし今回は覚醒剤原料でもなんでもない普通物の汎用試薬ベンゼンから作るので出発時点で怪しまれることはなし!まあ途中の合成中間体でバリバリの麻薬と覚醒剤原料出てくるけどね!

●空想実験
① ベンゼンのブロモ化
まず手始めにベンゼンを臭素化しておきましょう。全てはここから始まる。ベンゼンは非常に安定した化合物なので周りになんか装飾しようとしても簡単にはいきません。適当な置換基を導入して頑固なベンゼンを弱らせておきましょう。この臭素が結合している点を出発点に様々な原子が増えたり減ったりして着々と目的物に近づいていきます。

ルイス酸の臭化鉄(Ⅲ)が臭素分子の非共有電子対を受け取ることでブロモカチオン等価体になり、ベンゼンに求電子置換反応起こすことができます。


② グリニャール試薬の調整
はいみなさんお馴染みのグリニャール試薬ですね。すごく便利。ブロモベンゼンを無水エーテル溶媒中でマグネシウム金属と混ぜるだけでみるみる反応していきます。グリニャール試薬は様々な反応に使える優れもの有機金属試薬です。ここで作っておきましょう。

炭素-ハロゲン結合の間にマグネシウムが入り込み炭素-マグネシウム結合を作ります。マグネシウムは電気陰性度が低いため相対的に炭素がδ-性を帯びます。カルボアニオン等価体(炭素の陰イオンと同等と考えられるもの)として振る舞います。

③ グリニャール縮合反応
グリニャール試薬とカルボニル化合物との縮合反応です。縮合反応は以下の通り。
・G試薬+二酸化炭素→カルボン酸
・G試薬+ホルムアルデヒド→第一級アルコール
・G試薬+アルデヒド→第二級アルコール
・G試薬+ケトン→第三級アルコール
今回はプロピオンアルデヒドと反応させるので第二級アルコールの1-フェニル-1-プロパノールが生成します。

グリニャール試薬のマグネシウムと結合している炭素がδ-性なので電気陰性度の大きな酸素に電子を引っ張られているδ+性のカルボニル炭素に求核攻撃できます。電子が酸素に流れていき、アルコキシドが、酸でクエンチするのでプロトン化してヒドロキシ基となりアルコールになります。


④ 1-フェニル-1-プロパノールの酸化
ベンゼン環から数えて2番目(ヒドロキシ基の隣)の炭素にこの後あれこれしてあげたいのですが、アルコールのままだと特に進展はないのでケトンにしてしまいましょう。1-フェニル-1-プロパノールは第二級アルコールなので酸化させればケトンになります。

ケトンすなわちカルボニル化合物にすることでカルボニル基の隣(α位という)の炭素の反応性が上がります。

⑤ エチルフェニルケトンのブロモ化
カルボニル基の隣すなわちα位の炭素をブロモ化しましょう。今度はここが舞台です。勘のいい人はお気付きかと思いますが、有機合成においてある炭素を拠点に原子を繰り広げる場合はまず最初そこをブロモ化します(もちろん例外あり)。何故なら臭素は付け外しが利くからです(これを良い脱離基という)。ブロモ化剤にはNBS(N-ブロモスクシンイミド)が良いでしょう。


⑥ フェニル(1-ブロモエチル)ケトンのアジド化
α位がブロモ化されたので早速他の官能基に付け替えましょう。ネタバレをするとこの位置に取り付けたい官能基はアミノ基です。ただ一発でアミノ基をスッと入れるのは少々難しいので「アジドの還元的アミノ化」を行いたいと思います。これは何かといいますとアジド基を還元するとアミノ基になるというものです。なのでまずはこの場所にアジド基を入れることを考えましょう。アジ化物イオン(N₃⁻)は窒素3つ連結してるイオンゆえに求核性がめちゃ高いので臭素と簡単に入れ替わってアジドを形成します。

炭素-ハロゲン結合はハロゲンの方が電気陰性度が大きいため電子が引っ張られて炭素がδ+性になります。そこにアジ化物イオンがアタックして反動で臭素が臭化物イオンとして抜けていきます。こういう優れた脱離基と求核剤による入れ替わり反応を2分子求核置換反応(SN2反応)と言います。

⑦ 1-フェニル-2-アジド-1-プロパノンの還元
アジド基が導入されたので適当に還元してやりましょう。還元条件はなんでも良いです。水素化アルミニウムリチウム(LAH)でも塩化ニッケル(Ⅱ)存在下での水素化ホウ素ナトリウムでもパラジウム炭素触媒による接触水素化法でも。まあここでは接触水素化法にしておきましょうか。これでめでたくアジド基が還元されてアミノ基になりました。ここで生成したのがカチノンという物質で規制物質法スケジュールⅠ指定です。まあいわゆる麻薬と相違ない存在です。


⑧ カチノンのN-メチル化(メトカチノンの生成)
ここまで来ると麻薬になります。
カチノンのアミノ基の水素1つをメチル基に置き換える、N-メチル化反応を起こしたいわけです。メチル化剤としてはヨウ化メチルなどがありますが過剰に反応が進行してメチル基1つをくっ付けたいのに余計に2つ3つくっ付いてしまう場合があります。ここで選択的にアミノ基にメチル基を1つだけくっ付ける優れものの反応があります。エシュバイラー・クラーク反応です。これはアミノ基にホルムアルデヒドとギ酸を反応させることでN-メチル化が起こるというものです。


⑨ メトカチノンの還元(エフェドリンの生成)
いよいよ覚醒剤原料を作りましょう。エフェドリンは総感冒薬に含まれる鎮咳薬で気管支を広げる作用があります。まあそれは置いといてこの反応ではメトカチノンのカルボニル基をヒドロキシ基に還元するだけです。還元剤は水素化ホウ素ナトリウムあたりでいいでしょう。最終的にこの酸素をごそっと取り除かなければなりません。


⑩ エフェドリンのブロモ化
エフェドリンのヒドロキシ基を最終的に取り除くためにハロゲンに置換しておきます。ヒドロキシ基をハロゲン主に臭素に置き換えるには三臭化リン(トリブロモホスフィン)が良さげです。


⑪ ブロモ化アルキルの還元(メタンフェタミンの生成)
ブロモ化したあとの臭素を水素で吹き飛ばしてやればメタンフェタミンの完成です!長かったですね。水素で吹き飛ばすにはヒドリドを使えばいいです。ヒドリドはH⁻で表されるように所謂水素の陰イオンです。ヒドリド源には水素化アルミニウムリチウムを使えば良いでしょう。

前述の通り炭素-臭素結合は臭素の電気陰性度が大きいため炭素がδ+性を帯びています。ここにヒドリドを反応させればSN2反応的に還元が行えます。これでめでたくメタンフェタミンの完成です。

●まとめ
今回の一連の合成マップをまとめると以下のようになります。


というわけで今回は誰もがよく知る「ベンゼン」から覚醒剤「メタンフェタミン」を作る方法をご紹介しました。理論上ね。
このようにして炭素を土台にしてパズルのように目的の位置に目的のものを当てはめていく、時にダイレクトに時に遠回りに、そうして分子を飾り付け、作り上げていくことこそが有機化学です。そんな偉大な学問である有機化学を学ぶ教材が覚醒剤ってのはなんだかアレゲですけどね。あ、あと今回教えたことは間違っても真似しないように。絶対捕まるから。非合法以前に、そもそもシャブの末端価格の相場とこの方法の製造コストじゃ釣り合い取れないと思います。
それでは次回の記事までさよなラジカル。

えざお

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