【界隈騒然】合法ドラッグが一転違法へドボン!脱法ドラッグと指定薬物規制のイタチごっこの話。

【おことわり】
※2023年以降1v-LSDとTHCOを含む数種の脱法ドラッグが指定薬物になり違法化しました。以下の記事で載せている写真は違法成分を含まない、もしくは規制がかかる以前に撮影したものであり現在は修復の余地なく廃棄されています。

みなさんこんにちは。
みなさんは指定薬物という言葉を聞いたことありますでしょうか。麻薬なら知ってるよという方もいるかも知れません。実は麻薬は指定薬物という集合の部分集合なのです。論理記号で書くなら[麻薬⊂指定薬物]って感じです。つまりは麻薬(ヘロイン、コカイン、LSD、MDMA)も指定薬物の一つですね。
話は変わってみなさん1v-LSDや合成カンナビノイドという言葉を聞いたことありますでしょうか。カンナビノイドは身近なところで言えばCHILL OUTに含まれるCBD(カンナビジオール)なんかがそうで、大麻から採れる成分を一纏めにしたグループ名です。ケシ(opium)から採れるモルヒネなどの成分を一括りにオピオイドと呼んでるのと同じだと認識してもらって大丈夫です。
さて、これらは実は去年ごろから\"お薬もぐもぐ界隈\"(市販薬や処方箋薬をODしたりする病み垢の集いや普段からillegalなジャンキーさんなど)で流行り始めた所謂「合法ドラッグ」というやつです。聞こえはいいですけど法の穴を上手くすり抜けてる時点で「脱法ドラッグ」です。1v-LSDや合成カンナビノイドはそれぞれLSD、マリファナと同等かもしくはそれ以上の体感を有すると言われています。こいつらが何故今まで法規制されなかったかと言うと
『分子構造を少しでも変えれば無限にデザイナーズドラッグが作れるから』
です。そう、違法薬物は腐っても化学物質ですから化学の手を加えれば法規制されてない成分の合成など楽勝で生理活性云々は置いといて無限に作れるので規制が追いつかないんです。まるでフェネチルアミン骨格を有する麻薬全てを包括規制できないかのように。

日本警察は覚醒剤や麻薬や大麻を取り締まるので精一杯なのでクラブドラッグとかデートレイプドラッグの取り締まりには手が足りないわけですね。それではデザイナーズドラッグがどのように構造変換されて法の穴をすり抜けているのか今回の件で見ていきましょう。

●1v-LSD

名前からしてLSDって言っちゃってるのでもちろん幻覚剤でブロッターという専用の紙に垂らして下に乗せて口腔粘膜から吸収してラリります。LSDと食べ方は同じですね。ブロッター1マスに100~300μgが染み込んでいます。え?単位は間違えてませんよμgです。わずか0.0001gでも摂取すれば幻覚に陥ります。LSDは身体依存性も精神依存性もタバコや酒より弱いといいます。では何故規制されているのか、それはラリって自我を失った理性喪失人間が危険行為をはたらくのを防ぐためです。当人ではなく周囲に迷惑をかけるので規制をかけています。で、LSDと1v-LSDの何が違うのかと言うと構造式を以下に示します。

LSDはインドール骨格も有する幻覚剤で別名マゲと言います。これは目の前の現実世界が曲がる幻覚を見ることからだそうです。さて1vはこのインドール由来の窒素にバレリル基という炭素5つ増やした置換基を導入しています。1vのvってローマ数字の5って意味だったんでしょうかね?このように違法成分の母骨格を残しつつ周辺を化学修飾する、それがデザイナーズドラッグです。その薬物自体が違法でなくとも体内で分解されれば違法成分に丸変わりするわけです。違法成分のプロドラッグみたいなものですね。

●合成カンナビノイド
カンナビノイドは大麻から採れる成分またはそれらの前駆体や誘導体をひっくるめた呼び名でした。現在飲料や入浴剤にも使われているカンナビジオール(CBG)やカンナビノール(CBN)などありますが主な違法成分はテトラヒドロカンナビノール(THC)です。

カンナビノールの構造式中の2つのベンゼン環のうちメチル基が生えてる方(上の方、水酸基が無い方)が2分子の水素添加すなわち4つの水素原子で還元されてオレフィンになっているので「テトラヒドロ」なわけです。他にも3分子水素付加させたヘキサヒドロカンナビノール(HHC)など違法成分がありますが今回注目したいのが\"THCO\"です。
 
今まで紹介してきたカンナビノイドはすべて語尾が〜ol(オール)で終わる、すなわち化学の命名法ではアルコールの一部でした。ヒドロキシ基を持つので。THCOはそのヒドロキシ基を無水酢酸ないしアセチルクロリドを用いてアセチル化した合成カンナビノイドです。どっかで見たことある操作ですね。ヒントは無水酢酸は特定麻薬向精神薬原料であること。そう、モルヒネの2つの水酸基をアセチル化してジアセチルモルヒネすなわち「ヘロイン」を作ることと同じ操作です。ヘロインは麻薬界じゃ最恐最悪の麻薬で一回でも手を出せば確実に人間を辞めることになります。それと同じ操作をテトラヒドロカンナビノールで行ってるわけです。アセチル化するメリットはバイオアベイラビリティーの向上、つまり生体親和性が上がることです。水酸基をアセチル化することでより有機物質に近づければ血液脳関門をスムーズに通り抜けることができます。THCOは現在2023年3月20日以降から指定薬物となり規制されました。構造式見ただけで「これは時間の問題だな」と5ヶ月前にTwitterで発言してからの予言的中。政府の大麻取締の熱情にはやや引き気味でいます。タバコや酒が嗜好品ならばテトラヒドロカンナビノールを含まないガンジャ由来の嗜好品もあっていいと思ってる派です。そうそう、合成カンナビノイドは基本的に液体で各種混合したカクテルみたいな液体を1mLアトマイザーに封入したものでこれを電子タバコのように吸ってリラックス効果を得るのが最近の流行りだそうです。

カンナビノイドは規制されたもの以外にもかなりの種類があるのでマリファナーにとってはかなり体感が強いらしいTHCOの規制は痛かったことでしょうが、別に他のもあるし、と開き直ってるかもしれません。

●まとめ
合法ドラッグだとか脱法ドラッグは法の穴をすり抜けてるだけで結局体内で違法薬物に変換されて効果を発揮するのでやってることはそこら辺のジャンキーと変わらない。流行りだからと言って無理してキメる必要はない、断る勇気を持ちましょう(僕はタバコの類が大嫌いなので電子タバコ、水タバコ、シーシャも生理的に無理)。そして何より分子構造なんて最も簡単に変えられて適当に作ったものがめちゃくちゃアッパーだったりすればそれが世に出回るんだからこの先永遠に闇の合成ラボと警察のイタチごっこである。街中で出回ってる違法薬物の類は闇ラボで作られているので嵩増しで何を添加されているのかわからない。衛生状況もわからないものを摂取したり血管に入れることのないように。最後に、別に大麻解禁国増えてるんだからオピオイドが医療用麻薬に使われるようにカンナビノイドも医療用ゆくゆくは普通に電子タバコのリキッドのように嗜好品になれば皆コソコソとやる必要も警察が追いかけ回すこともないのになぁと思いました。まあそれなりの理由があるんでしょうね。みなさん何が入ってるか分からんものは絶対に口にしないように!どんな誘い文句があっても違法は違法です。ジャンキーの口車に惑わされないよう確固たる意志を持ってNO!と言える勇気を持ちましょう。落ちこぼれ薬学生からのお願いでした。それでは次回の記事までさよなラジカル。

文章:えざお
図/イラスト:麻殻樂野

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