放電から始める硝酸作り【一般のご家庭でもできるっちゃできる】

ナイスな試薬、硝酸

 これを読んでいる読者諸君、硝酸が欲しいと感じたことはあるだろうか?いや、ないとは言わせない。酸性溶液や酸化剤としてのみならず、金を溶かせる液体である王水の原料でもあり、ニトロ基への置換やそこからのコンボ技によりステキな化合物をじゃんじゃん作ることができる……これを尊ばずして化学徒は名乗れない……!かも知れない。
というわけで、一般家庭でもギリ再現できる硝酸を作る方法について考えてみたぞ!!!
硝酸を自作しようだなんて…そそるぜ!これは!!


硝酸の製造方法

 硝酸はどのようにして作るか?ダントツで有名なのはオストワルト法でしょうか。聡明な読者諸君ならご存知かと思います。アンモニアを力技で酸化して一酸化窒素をつくり、それをさらに酸化して作った二酸化窒素を水に溶かし込むことで硝酸を生成するという、割とシンプルな反応ですね。ただしアンモニアを酸化するためには触媒としてプラチナが必要であるため、一般家庭では手を出すことができません。
 そこで他の製造方法を調べてみたところ別の方法を発見しました。それは電弧法という、空気から無限に硝酸を作る方法です。無限というのは少々誇張しすぎてしまったかも知れないですが、電気代によって予算が尽きない限り製造できるかと。
 実際、オストワルト法のなかった時代にはノルウェーにて電弧法で硝酸を作っていたようです。水力発電がしやすく、安価な電力が供給できたからこその力技といえるでしょう。我々のような一般ピーポーには難しい話ですな。


       fig1-この実験で起こす反応


 では、電弧法の仕組みについて解説しましょう。まず、空気中に存在する窒素と酸素をアーク放電による高温で直接反応させて一酸化窒素を作ります。それをさらに酸化して二酸化窒素とし、これを水と反応させます。これで硝酸の出来上がりとなります。(fig1)大筋はオストワルト法のそれと同じですし、至ってシンプルな反応ですね。


実際にやってみよう!

 というわけで、電弧法を再現していくために工作をします。必要なものは、アーク放電を起こすための高圧電源とアーク放電の高温に耐えられる電極、それから生成する気体を水に吹き込むためのシステムです。
 筆者は図のような装置を組み立てました。(fig2)

fig2-装置の図解
           fig2-装置の図解

 MOTというのは、電子レンジに付いている高圧トランスのことです。某理科の教科書でおなじみですね(笑)。電圧調整のためにスライダックを経由して家庭用電源に接続しています。放電はガラス瓶の中で行います。これによって、生成する気体を閉じ込めておくのと同時に、水に吹き込まれるように誘導することが可能となるのです。生成した気体は浮き輪用の空気入れで、空気ごと水へと吹き込む仕組みです。ついでにガラス瓶の中の気体も新鮮な空気にすることができて一石二鳥なわけです。電極としてはステンレス製の棒を使用していますが、ガラス瓶の蓋の断面部分は電気を通してしまいます。そのまま取り付けてしまっては電極→ガラス瓶の蓋→電極という回路が形成されてしまい、そもそも空気中で放電されません。その対策として、絶縁のために熱収縮チューブをつけた上でグルーガンで固定しています。


硝酸をお試しで作ってみる

 それでは、装置を稼働させてみましょう。この実験をごく一般的な家で行う場合、家庭用電源のブレーカーを落とさないことを意識しましょう。筆者は3回ほど落としてしまいました。さて、放電時間が経つにつれてガラス瓶の中が赤茶色になってきたのがわかります。(fig3)


          fig3-NO₂による赤褐色
           

 一酸化窒素が酸化されて二酸化窒素になったということでしょう。多分。ある程度時間が経ったので空気入れを動かして気体を水に吹き込んでいきます。はたしてこれは硝酸だったのか、pH試験紙と硝酸イオン測定用水質検査キットを用いて検定してみました。(fig4)


          fig4-液性の確認結果
           

どうやらちゃんとした硝酸のようですね。実験成功です!

                       

まとめ

 というわけで、無事硝酸を作ることに成功しました。いやぁめでたいですな。一般家庭で硝酸を自作できることを実証することができましたが、残念ながら電気をバカみたいに食うので大量生産には向いていないです。ステンレスの電極も酸化してしまうし、MOTからの放熱が追いつかずにどえらいことになったりもします。連続稼働は様子見しつつほどほどに。それをクリアしたとしても次は毒劇法の壁があります。濃度が10%以上の硝酸は劇物に指定されているため、扱いが少々めんどうです。警察沙汰になりたくなければ濃ゆいものを作るべきではありません。
 結局、夢のような話は夢のままなのです。大人しく、硝酸は試薬業者から購入しましょうね。
           

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動画版が見たい方はこちらのURLを踏んでください。
第一回:https://youtu.be/l4zm8ffaG_0
第二回:https://youtu.be/bHmoShWqlJ4
無修正版(みくあす令和ラボ読者限定仕様):https://www.youtube.com/watch?v=9vnP1F98BQ4


放電から始める硝酸作り【一般のご家庭でもできるっちゃできる】
希硝酸を電弧法により生成する試みである。結果として希硝酸の製造は可能であることを実証したが、実用性の観点から、あまり有用ではないだろうという結論に至る。というわけで硝酸は、おとなしく試薬業者から購入しようね!自分で作るにしても、ロマンの追及という目的にとどめよう!

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