[おうちラボで実験してみた番外編2]レベル別に見る自宅実験の経験値

みなさんこんにちは。
今回は自宅で実験を行うにあたっての経験値の積み方についてお話ししたいと思います。最近はTwitterで自宅化学実験を始める人を多々見かけるようになりました。しかし、手元に十分な設備が無く、ある程度の知識が無いまま、やりたい欲だけ暴走させて強行突破しようとするともれなく事故って取り返しのつかないことになりかねません。そこで今回は化学実験をレベル分けしてどこから始めれば良いかの指標となる記事を書こうと思います。

●下準備
おうち実験を始めるとしてまず重要なのが廃液処理。業者や自治体に委託するのがメジャーです。ただ外部委託するような薬品を使わなければこの限りではありません。個人的には重金属や有機廃液くらいだと思っています。酸塩基廃液に関しては中和して下水に流せる場合もあります。ただ無闇に中和すればいいというわけでもなく中には反応途中で毒ガスが発生したり反応物自体の環境負荷が大きいものもあったりするのでそこに関しては薬品の知識が必要です。下水に流していいものとダメなものの区別を付けられることが第一歩です。

●実験の心得
おうち実験初心者にありがちなのが自分の技量を把握しないでとりあえずハイレベルかつ危険な実験へ背伸びしようとするということ。百発百中でその実験は失敗に終わりますし、事故るリスクが非常に高いです。手元にビーカー、試験管、フラスコなどの基礎実験器具しかない状態で有機合成なんてまず無理な話です(基本的に有機化学実験はハイレベル)。こういうのは経験値が物を言うことが多く、積めば積むほど失敗時の対処やプロトコル書き換えなど臨機応変な対応が可能になります。ですから、「なんか実験器具揃えたし、とりまサルファ剤作ったろww」なんてのはおとといきやがれです。手順書を見ただけで初心者が真似できるほど甘くありませんし、実験手順書はクックパッドではありません。よく料理は実験と同じと言いますが、実験は料理と同じではありません。必要十分条件ではないのです。
また、化学を一通り勉強したからといって実験できるわけでもないです。音楽理論を勉強して楽譜が読めてもピアノが弾けるわけではありません。大学も研究に必要なスキルを身につける練習として実習を行うように化学実験には練習が必要なのです。

●化学実験のレベル分け
それでは早速、レベルに応じた化学実験の例を見ていきましょう。自分が今やりたい実験がどこに当てはまるのかを吟味し、それより数段階低いレベルの実験から練習することをお勧めします。今回は評価基準として以下4項目を5段階で評価したいと思います。
項目と評価の目安については、
〈① 実験の操作性〉
「1」混ぜるだけ
「2」自由研究レベル
「3」中高の実験レベル
「4」科学部レベル
「5」大学の実習レベル

〈② 実験設備〉
「1」試験管やビーカーなど基礎的な器具
「2」加熱器具や各種フラスコ
「3」吸引ろ過やマグネチックスターラー
「4」摺り合わせガラス器具
「5」還流設備や局所排気設備

〈③ 試薬の危険性〉
「1」安全性が高い。食品添加物など。
「2」手に付着したら洗い流す。
「3」皮膚刺激性がある。
「4」揮発性もあり皮膚粘膜刺激性,腐食性が強い。
「5」皮膚粘膜刺激性,腐食性が強く毒性や発がん性も高い。

〈④ 試薬の入手難易度〉
「1」スーパー、薬局で購入可能。
「2」食品添加物としてネットで購入可能。
「3」研究用薬品としてネットで購入可能。
「4」劇物のため譲渡申請を行うor海外から輸入する必要がある。
「5」試薬販売代理店を通す必要がある。
となっております。
それでは以下主な化学実験例をご紹介します。
↓↓↓↓↓↓

【Lv.1 調味料の液性を調べる】
・操作性「1」
・設備性「1」
・危険性「1」
・入手性「1」
用意する器具は試験管やガラス棒、試薬は酸塩基指示薬(万能pH指示薬が便利)と基礎的なものばかりで一番取りかかりやすく、もはや小学生の自由研究くらいのノリで始められる。食塩、酢、重曹、醤油、砂糖、みりんetc...さまざまな調味料の液性を調べると案外面白い。個人的には卵白の液性が意外だった。

【Lv.2 カゼインプラスチック作り】
・操作性「1」
・設備性「2」
・危険性「1」
・入手性「1」
温めた牛乳にお酢やレモン汁などの酸を加えるとカゼインが凝析する。これをガーゼで搾り取って回収し、圧力を加えながらレンチンするとプラスチックができる。自由研究にも使えそうな実験題材である。

【Lv.3 結晶作り】
・操作性「2」
・設備性「1」
・危険性「1」
・入手性「1」
ミョウバンなどを再結晶させて巨大で美しい結晶を作ってみよう。市販のクリスタル実験キットの中身はリン酸二水素アンモニウム。再結晶は合成化学において精製手段として重要なもの。ここでしっかり学んでおこう。実験自体はお手軽のように見えるが、上級者になると様々な金属塩の結晶を作り、溶媒の蒸発や結晶の成長速度までもを制御し始めてくる。

【Lv.4 野菜からDNAを抽出】
・操作性「3」
・設備性「1」
・危険性「1」
・入手性「1」
代表的な生化学実験。高校や大学の実習でもよく行われてるもの。材料は玉ねぎやブロッコリーなどの野菜。使う薬品は塩化ナトリウム、食器用洗剤、無水エタノールとスーパーや薬局などで手に入るものばかり。

【Lv.5 唐辛子からカプサイシン抽出】
・操作性「2」
・設備性「2」
・危険性「2」
・入手性「1」
使う材料はカプサイシンと無水エタノールだけ。いずれもスーパーや薬局で手に入る。操作も2つを混ぜて放置して濾過して煮詰めるという簡単さ。カプサイシンは刺激性、エタノールは引火性なので取り扱いは要注意。上級者になるとソックスレー抽出器とロータリーエバポレーターが欲しいところ。

【Lv.6 炎色反応の観察】
・操作性「1」
・設備性「1」
・危険性「2」
・入手性「3」
炎に入れると元素固有の色が現れることでお馴染み炎色反応。リアカー無きK村…で覚えた人も少なくないだろう。実験自体はナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、リチウム塩、ストロンチウム塩などを使うが、薬局で取り寄せるかネットでポチるかすれば手に入るだろう。大抵釉薬として売られている。最近は炎色反応実験キットも売られているよう。

【Lv.7 硫酸銅の合成】
・操作性「1」
・設備性「1」
・危険性「4」
・入手性「3」
劇物の硫酸銅は案外簡単に作れる。ガラス釉薬用の酸化銅粉末と10%希硫酸を混ぜるだけ。どちらもネットでポチれる。反応後に濾過して加熱濃縮すれば綺麗な青色の結晶が出てくる。銅は環境負荷が大きい重金属なので廃液は下水に流さないこと。硫酸銅は汎用試薬なのでゲットできると実験の幅が大いに広がる。

【Lv.8 ケミカルガーデン】
・操作性「2」
・設備性「1」
・危険性「3」
・入手性「3」
ケイ酸ナトリウム(水ガラス)と金属塩の反応によってゆっくり樹枝状に沈殿物が成長する実験。金属塩の種類や環境によって色や形状が変わる。いずれの試薬も市販されている。ただ皮膚刺激性が強いことが多いので取り扱いには要注意。

【Lv.9 銀鏡反応】
・操作性「2」
・設備性「1」
・危険性「3」
・入手性「3」
高校化学でお馴染みの反応。アンモニア水で塩基性にした硝酸銀水溶液にブドウ糖など還元性のある物質を加えて加熱すると反応容器壁面に鏡のように銀が析出する。実験を工夫するとオリジナルの鏡が作れる。

【Lv.10 石鹸作り】
・操作性「2」
・設備性「2」
・危険性「3」
・入手性「3」
使う材料は牛脂とココナッツオイル。試薬に劇物の水酸化ナトリウムを使うのが少し厄介。水溶液なら劇物から外れるのでネットでポチれるが、固体状態で欲しかったら石鹸作りに使うと取扱店(薬局など)に申請すれば手に入る。実は水酸化ナトリウムを使わない裏ワザもあるのだが…(第3回実験記事参照)

【Lv.11 アルミホイルからミョウバンの合成】
・操作性「3」
・設備性「2」
・危険性「3」
・入手性「3」
アルミホイルを水酸化ナトリウムで溶かし、希硫酸と混合して硫酸アルミニウムとしたのち硫酸カリウム水溶液と混合して複塩とする実験。反応途中で水酸化ナトリウム水溶液の蒸気を含む水素ガスが発生したりするので換気に注意。

【Lv.12 ペットボトルのケミカルリサイクル】
・操作性「3」
・設備性「2」
・危険性「3」
・入手性「3」
ペットボトル(ポリエチレンテレフタラート)を水酸化ナトリウムで加水分解したのち、塩酸で処理してテレフタル酸を取り出す実験。プラスチックを原料に戻すケミカルリサイクルを体験できる。

【Lv.13 銅アンモニアレーヨン】
・操作性「3」
・設備性「2」
・危険性「4」
・入手性「4」
脱脂綿などのセルロースをシュバイツァー試薬と呼ばれるものに溶かして希酸中で細く紡ぎ、レーヨン繊維を作る実験。高校化学の教科書にも出てくる割と定番の実験。濃アンモニア水を使うので鼻が「エンッ!」とならないように注意。

【Lv.14 ジアゾカップリング】
・操作性「3」
・設備性「3」
・危険性「4」
・入手性「4」
スルファニル酸を亜硝酸ナトリウムでジアゾ化し、ナトリウム2-ナフトキシドとカップリングさせることで赤橙色の染料が合成できる。なんと言っても試薬の入手がかなり困難。

【Lv.15 アスピリンの合成】
・操作性「3」
・設備性「2」
・危険性「4」
・入手性「5」
サリチル酸と無水酢酸を濃硫酸触媒で反応させるだけの簡単な実験ではあるものの試薬の無水酢酸が特定麻薬向精神薬原料(モルヒネからヘロインを作るのに使われる)に指定されてるため入手の難易度がかなり高い。

【Lv.16 ニトロベンゼンの合成】
・操作性「3」
・設備性「5」
・危険性「5」
・入手性「4」
おうち実験の登竜門とも言えるニトロベンゼンの合成。これさえ出来れば上級おうちケミスト。高校の実習でも行われるメジャーなもので、ベンゼンにニトロ基を置換させるだけの反応だが、ベンゼンや濃硝酸、濃硫酸など危険な試薬を使う。適切な温度管理も必要となるため家でやるレベルとしてはかなり高め。ちなみにニトロベンゼンは劇物。

【Lv.17 アニリンの合成】
・操作性「3」
・設備性「5」
・危険性「5」
・入手性「4」
ニトロベンゼンを酸と金属で還元する実験。濃塩酸や水酸化ナトリウム、金属スズを使う。反応させるのにもコツがいる。試験管レベルの少量合成なら高校でもやるメジャーな実験だが、フラスコレベルの大量合成は割としんどい。アニリンから様々な化合物へと派生させられるのでベンゼン→ニトロベンゼン→アニリンの流れはマスターしておきたいところ。ちなみにアニリンは劇物。

【Lv.MAX 各種有機合成】
・操作性「5」
・設備性「5」
・危険性「5」
・入手性「5」
自分で合成したい化合物に目をつけて合成ルートやプロトコルを書き出し、ガラス器具や反応装置を自在に組み立てて実験することが出来れば一丁前のおうちケミストだ。これくらいになると実験設備も(分析機器を除いて)大学にあるもののやや下位互換くらいのレベルにはあるのではないだろうか。

以上が自宅で出来そうな化学実験の例です。何個かすでに実験記事になってるものもあるので参考にするといいかもしれません。また、上に挙げたものはあくまで一例ですので、もしやりたい実験があれば主観で構わないので同様に5段階で評価してみて照らし合わせてみてください。おそらく無理のないおうち実験ライフが送れると思います。
それではさよなラジカル。

えざお

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