【第56回おうちラボで実験してみた】美しき青い有機化合物!チオベンゾフェノンを合成してみた。〈チオベンゾフェノンの合成編〉

〈実験〉有機合成化学

みなさんこんにちは。
前回はベンズヒドロールを合成したので水酸基をブロモ基に置換したのちWittig試薬を合成したいと思います。え?うぃってぃぐ?いえ、これはウィッティヒと読みます。

●Wittig試薬について
ここで呼ぶWittig試薬はジフェニルメチレンホスホニウムブロミドという塩で、Wittig反応はこの塩から塩基を用いて水素を引き抜き、炭素に?、リンに?の電荷を持つ物質が生成します。このように一分子内で電荷が完全に分極している化合物をイリドと呼びます。今回はトリブロモホスフィンを用いるのでリンイリドとも呼びます。このリンイリドにカルボニル化合物を作用させるとオレフィンが合成できるWittig反応がありますが今回はまた別の硫黄との反応です。

●合成について
トリブロモホスフィンすなわち三臭化リンはアルコールをハロゲン化アルキルへ変換する有用な反応試薬です。
ベンズヒドロールの水酸基をブロモ化してジフェニルブロモメタンを得たならばトリフェニルホスフィンと反応させます。トリフェニルホスフィンのリンは求核性が高いのでSN2反応で容易にハロゲン化アルキルと反応して対応するWittig試薬を生成します。これらは非プロトン性溶媒で行うのが常でしょう。続いてN,N-ジメチルホルムアミドにジフェニルメチレンホスホニウムブロミドと硫黄を入れて水素引き抜きでリンイリドにするためトリエチルアミンを加えて加熱すると真っ青なチオベンゾフェノンが得られます。反応ではトリフェニルホスフィンスルフィドも副生するのでカラムクロマトグラフィーで精製します。

●実験
※注意
いずれの試薬も薬傷、失明の危険性があり、重篤な事故につながる恐れがあります。安易な真似は控えてください。実験者は白衣、保護眼鏡、手袋を着用し、必要に応じて局所排気設備を使用しています。

◆材料◆
・ベンズヒドロール
・三臭化リン
・トリフェニルホスフィン
・ジクロロメタン
・トルエン
・N,N-ジメチルホルムアミド
・トリエチルアミン
・硫黄

◆器具・装置◆
・500mL三口フラスコ
・側管付き滴下漏斗
・ジムロート冷却器
・分液漏斗
・シリンジ
・ロータリーエバポレーター

① ジクロロメタン中で撹拌しながらベンズヒドロールに三臭化リン100gを滴下する。このときフラスコは氷浴で冷却しておく。3時間撹拌する。
 

② 反応液を室温に戻して撹拌を続け、適量の水を加えてクエンチする。
 

③ 有機層を回収し、ロータリーエバポレーターで濃縮する。
 

④ 濃縮物を冷凍庫で冷やす。ジフェニルブロモメタンを得た。


⑤ トルエンにジフェニルブロモメタンを溶かし1当量のトリフェニルホスフィンを入れて12時間加熱還流する。白い沈澱が生じる。
   

⑥ 沈殿を吸引濾過で回収してジフェニルメチレンホスホニウムブロミドを得た。


⑦ 500mL三口フラスコにN,N-ジメチルホルムアミド250mLとジフェニルメチレンホスホニウムブロミド6.0gと硫黄0.8gを入れて撹拌する。実験装置内部は窒素置換しておく。
 

⑧ シリンジを用いてセプタムラバーからトリエチルアミン10mLを加える。色が褐色に変化する。
  

⑨ オイルバスで15分間加熱する。色が青色に変化する。


⑩ 反応液を引き上げて750mLの水を加える。DMFは水と混和性である。
 

⑪ 溶液を分液漏斗を用いてジクロロメタンで抽出し有機層を回収する。


⑫ 有機層をロータリーエバポレーターで濃縮しcrudeを得る。


⑬ crudeをジクロロメタン:メタノール=9:1でシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製する。青色のバンドのフラクションを集めてロータリーエバポレーターで濃縮する。
   

⑭ チオベンゾフェノンが得られた。
 

めでたくチオベンゾフェノン全合成のすべての過程が終わりました。チオベンゾフェノンって溶液は青くて綺麗なんですけど単離しちゃうと黒い塊にしか見えなくなってしまうんですね。基本的にチオケトンは不安定だとされていますがチオベンゾフェノンのようなジアリールケトンは比較的安定だそうで、ただ光があると酸素に弱いらしいので実験はテンポ良く進めなきゃいけないのが地味にしんどかったです。それでは次回の実験までさよなラジカル。

えざお
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