【第56回おうちラボで実験してみた】美しき青い有機化合物!チオベンゾフェノンを合成してみた。〈Grignard反応編〉

〈実験〉有機合成化学

みなさんこんにちは。
前回はブロモベンゼンを合成したのでいよいよGrignard反応を行います。え?ぐりぐなーど?いいえ、これはグリニャールと読みます。グリニャール反応は有用な増炭反応で1900年にヴィクトル=グリニャールによって発見され、後の1912年にノーベル化学賞を受賞しています。有機合成化学の最重要反応とも言うべき試薬なのです。ただ調製がやや面倒臭いのがキズですね。

●Grignard反応について
Grignard試薬は様々なカルボニル化合物と反応してアルコールを生じます。無機化合物の二酸化炭素とも反応して対応するカルボン酸を生成します。二酸化炭素も構造的にはカルボニルに似ているでしょう?Grignard試薬はハロゲン化アルキルと金属マグネシウムを反応させて作ります。これがまた不思議でハロゲン化アルキルの下でマグネシウム金属は溶けます。溶媒はジエチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテルを用います。Grignard試薬は一般式R-MgX(X=Br,I)と表されハロゲン化アルキルの炭素-ハロゲン結合の間にマグネシウムが割り込みした構造を取ります。炭素-マグネシウム結合においてマグネシウムは炭素よりも電気陰性度が低いため炭素が?に分極します。つまりはカルボアニオン等価体として扱えるわけですね。炭素がアニオンになることはまず無いでしょう。だからこそこの試薬は現在に至るまでも使用され続けているわけです。さて、この分極したGrignard試薬は求核剤なのでカルボニル化合物を作用させると求核付加が起こります。最後に酸でクエンチすることで目的化合物が得られるわけです。

●合成について
今回合成するのはベンズヒドロールです。ベンズヒドロールを合成するためにはブロモベンゼンを合成してGrignard試薬を調製、カルボニル化合物にはベンズアルデヒドを用います。

ブロモベンゼンにマグネシウムを作用させてフェニルマグネシウムブロミド(Grignard試薬)を調整したのち炭素が?に分極しているので求核剤となりベンズアルデヒドへ求核攻撃します。カルボニル酸素のπ電子が立ち上がるので希酸でクエンチすればアルコールが得られます。
ベンズヒドロールはベンゾフェノンの還元で水素化ホウ素ナトリウムを入れるだけで合成できますがそもそも水素化ホウ素ナトリウムがそんなに安い試薬というわけでもなく一発でベンズヒドロールを合成して有機合成双六を進めるのは些か面白くないので今回は有機反応の王道たるものを行いたいと思います。

●実験
※注意
はブロモベンゼンは毒性を有します。ジエチルエーテルは非常に引火しやすいです。いずれの試薬も薬傷、失明の危険性があり、重篤な事故につながる恐れがあります。安易な真似は控えてください。実験者は白衣、保護眼鏡、手袋を着用し、必要に応じて局所排気設備を使用しています。

◆材料◆
・ブロモベンゼン(合成物)
・マグネシウムリボン
・脱水ジエチルエーテル
・ベンズアルデヒド
・希塩酸
・亜硫酸水素ナトリウム

◆器具・装置◆
・250mL三口フラスコ
・側管付き滴下漏斗
・ジムロート冷却器
・セプタムラバーキャップ
・ウォーターバス
・分液漏斗
・ドライヤー
・ロータリーエバポレーター

① マグネシウムリボンを細かく刻んでおく


② 金属カリウムで乾燥させたジエチルエーテルをマグネシウムが湿るくらい入れて氷浴で冷却する。


③ 側管付き滴下漏斗にブロモベンゼン14.4mLをジエチルエーテル45mLで希釈した溶液を入れる。


④ 強く撹拌しながらブロモベンゼン溶液をゆっくり滴下していく。適宜フラスコ内をドライヤーで温める。ドライヤーを止めても反応熱で自然還流し始めたらブロモベンゼンの滴下を液滴が還流と同じ速度で落ちるまで続ける。溶液が白く濁り始める。


⑤ ブロモベンゼン全量滴下後、70℃のウォーターバスで20分間加熱して焦茶色のフェニルマグネシウムブロミドを調製する。
 

⑥ フェニルマグネシウムブロミドを氷浴で十分冷却したらセプタムラバーからベンズアルデヒド60mLを加える。


⑦ 再度溶液を70℃のウォーターバスに浸けて温める。


⑧ 10%塩酸を加えてクエンチする。


⑨ 二層に分かれるので下層の水層を分液漏斗で除き有機層を回収する。有機層は亜硫酸水素ナトリウム水溶液で分液洗浄し未反応のアルデヒドを除く。
 

⑩ 有機層を塩化カルシウムで乾燥してロータリーエバポレーターで濃縮する。黄色の固体の粗ベンズヒドロールが析出する。
 
⑪ 粗ベンズヒドロールを熱ヘキサンで再結晶し精製ベンズヒドロールを得る。
  

めでたくベンズヒドロールが得られました。この実験で初めてGrignard試薬を調製したのですが初めてにしては結構ちゃんと作ってキレのいい反応を行えたかなと思います。ベンズヒドロールも結晶性が良く再結晶も気持ち良かったです。チオベンゾフェノン全合成の旅はまだまだ終わりません。それでは次回までさよなラジカル。

えざお
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