
今回も有機合成をしていくわけなんですけども、今回合成するのはチオベンゾフェノンです。聞き馴染みのない化合物ですが、「チオ」と名前に入ってるからには硫黄を含む有機化合物であることがわかります。構造は以下です。
何故この化合物を合成したいかというとチオベンゾフェノンはなんと青色をしているらしいのです。有機化合物と言ったら白や茶色、灰色など地味な色ばかり、そんな中で青色の有機化合物ってなんだかロマンがありますよね。ちなみにチオベンゾフェノンはベンゾフェノンの酸素を硫黄に置き換えたものです。硫黄は酸素と同族元素なので置き換えが可能になってくるわけですね。
●合成方法について
チオベンゾフェノンはジフェニルメチレントリフェニルホスホランと単体の硫黄を反応させることで得られます。

今回はこのジフェニルメチレントリフェニルホスホランの合成がメインになってきます。以下がロードマップです。

ロードマップによるとベンズヒドロールが中間原料となっています。このベンズヒドロールはベンゾフェノンを適当な還元剤で還元することで得られます。

ただこれだとチオベンゾフェノンの合成にベンゾフェノンを使うというなんとも本末転倒感が否めないので今回はより単純な有機分子を出発物質として有機合成プロジェクトを進めていきたいと思います。
●ベンズヒドロールの合成


ベンズヒドロールの出発物質はベンゼンです。まず最初にベンゼンを鉄粉を触媒として臭素でブロモ化してブロモベンゼンとします。その後ブロモベンゼンを無水エーテル中で金属マグネシウムと反応させて有機化学ではお馴染みのグリニャール試薬を調製します。グリニャール試薬を調製後、ベンズアルデヒドを加えて酸でクエンチすることでベンズヒドロールが合成できます。
●ジフェニルブロモメタンの合成

ジフェニルブロモメタンはベンズヒドロールのヒドロキシ基を臭素に置き換えた化合物です。このようなアルコールのヒドロキシ基を臭素に置換するブロモ化反応には三臭化リンを用います。
●ジフェニルメチレントリフェニルホスホランの合成

ジフェニルメチレントリフェニルホスホランはリンが正に、炭素が負に帯電しているリンイリドという物質です。まずジフェニルブロモメタンとトリフェニルホスフィンを反応させることでジフェニルメチルトリフェニルホスホニウムブロミドが生成します。これを塩基であるトリエチルアミンと反応させてあげれば赤色のジフェニルメチレントリフェニルホスホランが生成します。
●チオベンゾフェノンの合成

ジフェニルメチレントリフェニルホスホランが合成できれば単体の硫黄を加えて加熱するだけです。このときトリフェニルホスフィンスルフィドという物質が副生成物として出てくるので分離しなければなりません。有機合成における化合物の分離といえばカラムクロマトグラフィーです。さて、紙に水性ペンで点を打って水に浸すと水が染み込むと同時にインクが紙上で分離しますよね。あれがクロマトグラフィーです。カラムクロマトグラフィーはカラムという細長いガラスの筒にシリカゲルの粉末を詰め、有機溶媒を流して目的の化合物を分離して得るという手法です。上手くいけばシリカゲル上を青い層が移動していく様子が観察できると思います。
●合成ロードマップまとめ
以下が今回の有機合成プロジェクトの壮観です。

非常に長い旅になると思いますが、これが常時試薬不足のおうちラボの宿命です。原料に使う試薬をさらに合成していかなければなりません。それから、原料についてはスケールそのままで何回か量上げ合成をすることもあるので悪しからず。それでは次回から実験を開始していきます。さよなラジカル
えざお
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