【第55回おうちラボで実験してみた】家の敷地に毒草が自生してたのでアルカロイド抽出してみた。

〈実験〉天然物化学・生薬学・分離化学・有機化学

みなさんこんにちは。
今回は以前から計画を立てていたというわけでもなく突発的に行動した実験です。というのも都立薬用植物園の帰りに自宅の敷地内にクサノオウが自生してるのを発見したからです!クサノオウという植物は有毒植物で園内では門のすぐ横で栽培されていました。


家に自生してたのは5株ほど。これを使って実験しようと思い立ったのです。思えば今から5年前の2018年、科学技術科の理系高校に入学した途端に同じクラスで毒物マニアと出会い「クサノオウ」という植物の存在を知りました。さてクサノオウで何を実験するか。そんなもんアルカロイドの抽出に決まってるじゃ無いですか!

●クサノオウについて
クサノオウはケシ科クサノオウ属の植物で茎や葉など葉脈を傷付けると黄色の乳液が滲み出てきます。


この乳液には約21種類程度のアルカロイドを豊富に含み皮膚に付着すれば炎症を引き起こします。誤食すると嘔吐、昏睡、呼吸麻痺を引き起こすなかなかの毒です。古くは薬草として皮膚疾患への外用薬として煮汁を用いていたそうですが生薬学の知識の無い者が行うのはかなりの危険を伴います。アルカロイドの主な成分はケリドニン、プロトピン、ケリジメリン、サンギナリンケレリトリンなど。


蜂毒は「毒のカクテル」と呼称されますがクサノオウも負けじと「アルカロイドのカクテル」といった感じです。この中でケリドニンは流石ケシ科と言った感じでモルヒネに似た中枢神経鎮静作用を弱いながらも持っているようでこの効果も西洋ではアヘンの代替として用いられたようです。ちなみに皆さまご存知の禁書「雑草で酔う」によればクサノオウを大麻のように巻きタバコとして吸入するとラリってハッピーになれるらしいです。どこで何してんねん。

●実験について
アルカロイドの抽出と言えばまあ相場は決まってて最初に植物体を挽いて細胞を徹底的に破壊したら有機溶媒で溶かし出して(アルカロイドが植物体内でリンゴ酸塩やクエン酸塩などとして存在してる場合は水酸化カリウムエタノール溶液などを用いる)、酸塩基の液液抽出するわけです。アルカロイド抽出は過去にも数回行っていますね。復習してみると
・アコニチン(トリカブト)
→ジクロロメタンで抽出(有機層)したのち酒石酸水溶液で分液(水層)、炭酸カリウムで弱塩基遊離させてジクロロメタンで抽出&濃縮
・ピペリン(コショウ)
→エタノールで抽出したのち水酸化カリウムを加えて弱塩基遊離させ、水を加えると沈殿として析出する。ろ過したのち再結晶
・ニコチン(タバコ)
→水酸化ナトリウム水溶液で弱塩基遊離させたのち水蒸気蒸留で流出液を集めてジクロロメタンで分液抽出&濃縮
と、アルカロイド最大の特徴「窒素を含むアルカリ性であること」を活かした抽出方法となっており有機溶媒と水の間を酸塩基の性質を生かして水と分離する有機溶媒で抽出、これが定石です。今回はクサノオウのこの毒々しい乳液を大量に搾り取って集めようというアヘンケシ傷入れ方式を取ろうとしましたが流石に無茶なので勘で実験してアルカロイド全てを掻っ攫います。ちなみに今回は最終目的物が綺麗な結晶として現れるとは到底思えないのですべて酒石酸塩にしてゴールとしたいと思います。無水条件で有機塩基を塩にするには水素化ナトリウムを用いるのが一番です。

●実験
※注意
アルカロイドは皮膚粘膜刺激性・腐食性を有します。メタノールは毒性を有します。水素化ナトリウムは自己発火性を有します。いずれの試薬も薬傷、失明の危険性があり、重篤な事故につながる恐れがあります。安易な真似は控えてください。実験者は白衣、保護眼鏡、手袋を着用し、必要に応じて局所排気設備を使用しています。

◆材料◆
・クサノオウ
・メタノール(エタノールでも可能)
・酒石酸
・炭酸カリウム
・水素化ナトリウム
・酢酸エチル
・ベンゼン

◆器具・装置◆
・フードプロセッサー
・吸引濾過瓶
・ビーカー
・ナスフラスコ
・分液漏斗
・アスピレーター
・ロータリーエバポレーター

① フードプロセッサーにクサノオウと適量のメタノールを入れて破砕する。
  

② 2時間ほど50℃の湯浴で煮出す。


③ クサノオウ-メタノールの青汁を吸引濾過し濾液を回収する。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮する。
 

④ 脂溶性の光合成色素クロロフィルはガラス壁面に張り付きアルカロイドが溶けた植物由来の水が残る。


⑤ 残留物に5%酒石酸水溶液100mL加えて撹拌し分液漏斗に移す。
 

⑥ 酢酸エチル30mLで水層を3回洗浄する。アルカロイド以外の余分な植物成分をここで取り除いておく。


⑦ 水層に炭酸カリウムを慎重に加えpHが8~9になるよう調整する。


⑧ 再度分液漏斗に水層を移して酢酸エチル30mLで3回抽出する。有機層を濾過しながらナスフラスコに移す。エバポレーターで濃縮する。
  

⑨ 濃縮物にベンゼンを加えて過剰の水素化ナトリウムと酒石酸を適量加えて粘稠な黄色物質を得たらエタノールをゆっくり加えて淡黄色の沈澱を得る。


⑩ 吸引濾過で回収して1日風乾する。残留する酒石酸やナトリウムメトキシドは濾過で分離されている。


⑪ クサノオウのアルカロイド酒石酸塩が得られた。


めでたく敷地内で自生してたので突発的にひらめいてやったアルカロイド抽出、酒石酸塩の状態で得られましたね。遊離アルカロイドではないので多分触っても皮膚は炎症起こしませんがこれを食べたら嘔吐、昏睡、呼吸麻痺を引き起こすこと間違い無しでしょう。なんてものが自生してるんだ家は。それでは次回の実験までさよなラジカル。

えざお
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