【第40回おうちラボで実験してみた】タバコからニコチンを抽出してみた。

〈実験〉天然物化学・分離化学

みなさんこんにちは。
今回はトリカブトのアコニチン、コショウのピペリンに次ぐアルカロイド抽出第3弾、タバコの葉からニコチンを抽出していきたいと思います。タバコの三大有害成分、ニコチン、タール、一酸化炭素は聞いたことある方も多いのではないでしょうか。これらのうちタールは発癌性、ニコチンは依存性に寄与しており、ニコチンが体内で代謝されるとさらに有害な成分に変化することが知られています。

●ニコチンについて
ニコチンはタバコの葉に含まれるアルカロイドです。アルカロイドはトリカブトから毒成分アコニチンを抽出する実験でも紹介した通り「生理活性が顕著な含窒素有機化合物」という定義があるので身体になんらかの形で作用します。ニコチンは自律神経系に存在するニコチン受容体に結合することでドパミン、アドレナリン、β-エンドルフィンなどの神経伝達物質の分泌を促進し、中枢神経を興奮状態へ持ち上げます。しかし一方で毒性も非常に強く、多量に摂取すると吐き気、眩暈、脈拍上昇、呼吸麻痺が起こり、最悪の場合死に至ります。タバコ2本分で幼児の致死量に達するので吸い殻の処理には注意が必要です。

●抽出プロトコル
タバコの葉はナス科タバコ属の植物で、ニコチンはこの中でリンゴ酸塩やクエン酸塩として存在しています。ニコチン自体はアルカロイドなので塩基性ですからまずは強塩基で遊離させる必要があります。それに加えてニコチンは水と混和しやすく共沸もするようなので水蒸気蒸留を行います。あとは流出液を適当な有機溶媒で分液抽出するのみです。そして重要なのが銘柄。どうせこの実験をするならニコチン量が多い方が良いですよね。ということで銘柄別のニコチン量を調べてみたところニコチン量のトップはピースらしいのでこの辺を狙っていきましょう。実験する当人は未成年ですし、家系的にも喫煙者は誰一人として居ませんがニコチンを抽出するというロマンには逆らえないので喫煙目的ではない(というかタバコはそもそも嫌い)という約束条件で親に買って来てもらいます。

●実験
◆材料◆
・タバコ(Peace20本入り)
・水酸化ナトリウム
・ジクロロメタン
・モレキュラーシーブ3A

◆器具・装置◆
・1000ml丸底フラスコ
・250ml丸底フラスコ
・分液漏斗
・単蒸留装置(リービッヒ冷却器,アダプター)
・マントルヒーター
・冷却水循環装置
・ロータリーエバポレーター
・水流式アスピレータ

① 3箱分のタバコ(60本)をばらして葉を取り出す。
 

② タバコの葉と5%水酸化ナトリウム水溶液500mlを丸底フラスコに入れる。


③ マントルヒーターで120分加熱して水蒸気蒸留する。フラスコ内が枯れないよう適宜水を加える。


④ 流出液を100mlにつきジクロロメタン25mlで3回抽出する。


⑤ 有機層をモレキュラーシーブ3Aで乾燥後、ロータリーエバポレーターで留去する。
 

⑥ 残留した油状液体をアンプルに封入する。ニコチンが得られた。


めでたくタバコからニコチンを抽出することに成功しました。空気に触れると淡褐色に変色する液体という情報通りです。この量だけで相当数の致死量になるので保管は厳重にしなければなりません。また新たなアルカロイドコレクションが加わりました。
それでは次回の実験までさよなラジカル

えざお

【参考文献】
ニコチン強度の一覧表
新星出版社 大人のための図鑑 毒と薬

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