【第36回おうちラボで実験してみた】組織染色蛍光色素エオシンYを合成してみた。

〈実験〉有機合成化学

みなさんこんにちは。
今回は組織染色液としても利用される蛍光色素エオシンYを合成していきたいと思います。組織学の分野では病理切片をはじめとする生物組織の顕微鏡観察をより容易にするために特定の部位に結合しやすい色素を用いることで色分けをしたりします。中学校の理科で行った酢酸オルセインまたは酢酸カーミンによる細胞核の染色もその一例です。生体組織だけでなく、細菌の識別に用いるグラム染色や抽出したタンパク質・核酸などの電気泳動で人間に対して可視化する際にもこのような染色液が用いられます。今回合成するエオシンYは細胞質や筋線維、赤血球などを染めることができ、エオシンによって染まるものを好酸性ないしエオシン好性と呼びます。


●エオシンYについて
今回合成する蛍光色素エオシンYは以下のような構造をしています。


お気付きの人もいるかと思いますがフルオレセインの芳香環をブロモ化しただけなのです。別名もテトラブロモフルオレセインと言います。合成としてはまず前半部分はFriedel-Crafts反応でフルオレセインを作ることになるので第14回実験と内容はカブります。その後以前の実験で作った臭素と混ぜてブロモ化をするわけです。すなわち過去に作った実験産物を組み合わせるわけですね。反応機構は第14回実験記事フルオレセインの合成編を参照とします。


フルオレセインは白色光下でも紫外線下でも黄緑色の妖しげな蛍光を発しますが、エオシンYは白色光下でピンク色、紫外線下では黄色の蛍光を示します。ちなみにエオシンYのYとは黄色(Yellow)のことだったりします。このように臭素が導入されただけで蛍光色がガラッと変わってしまうのです。それでは早速実験していきましょう。

●実験
※注意
無水フタル酸、レゾルシノールは皮膚粘膜刺激性を有します。濃硫酸、水酸化ナトリウムは皮膚粘膜刺激性・腐食性を有します。臭素は皮膚粘膜腐食性を有する猛毒です。いずれの試薬も薬傷、失明の危険性があり、重篤な事故につながる恐れがあります。安易な真似は控えてください。実験者は白衣、保護眼鏡、手袋を着用し、必要に応じて局所排気設備を使用しています。

◆材料◆
・無水フタル酸
・レゾルシノール
・濃硫酸
・5%水酸化ナトリウム水溶液
・35%希硫酸
・炭酸ナトリウム
・エタノール
・臭素

◆器具・装置◆
・100ml丸底フラスコ
・250ml二口フラスコ
・適当容量ビーカー
・側管付き滴下漏斗
・塩化カルシウム管
・吸引ろ過瓶
・氷浴
・オイルバス
・ホットマグネチックスターラー
・水流式アスピレーター
・乾燥機

① 100ml丸底フラスコに無水フタル酸2.4gとレゾルシノール3.6gを入れる。


② 濃硫酸を6滴加え、200℃のオイルバスで30分間加熱攪拌する。


③ 室温冷却後に5%水酸化ナトリウム水溶液を適量加えて塊を溶かす。
  

④ 35%希硫酸を加えて中和する。


⑤ 生じた沈殿を吸引ろ過で回収する。
 

⑥ 130℃の乾燥機で乾燥させる。色が黄色から暗赤色に変化する。フルオレセインが得られた。収率は70.95%であった。後の操作に収量が足りていなかったため2回実験を行った。続いてフラスコにフルオレセイン6.0gとエタノール40mlを250ml二口フラスコに入れる。


⑦ 氷浴中で攪拌する。


⑧ 滴下漏斗に入れた臭素13gを少しずつ加えていく。温度が40℃を超えないように注意する。
  

⑨ 臭素を全量滴下した後、室温で30分間攪拌を続けて反応を完了させる。


⑩ 5%水酸化ナトリウム水溶液150mlを加えて攪拌する。


⑪ フラスコの内容物を500mlビーカーに移して35%希硫酸を少しずつ加えて中和していく。赤橙色の沈殿が生じる。


⑫ 生成した沈殿を吸引ろ過で回収する。


⑬ 回収して沈殿を乾燥する。エオシンYが得られた。収率は92.22%であった。


⑭ ミクロスパーテル1杯分のエオシンYを適当濃度の炭酸ナトリウム水溶液に溶かして紫外線を当てた水に滴下して蛍光する様子を確認する。
  
                                        左:エオシンY  右:フルオレセイン

めでたくエオシンYを合成することができました。ちなみに色素合成全般に言えることなのですが、気を抜くとあちこち汚染されるので後始末はしっかりしましょう。衣服に着くとサイケデリックでアヴァンギャルドなファッションとなってしまいます。そして何より組織染色に使われるくらい皮膚との相性抜群なので一度手に付着すればたちまち手が蛍光します。必ず手袋を着用しましょう。それでは次回の実験までさよなラジカル。

えざお
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