【第22回おうちラボで実験してみた】化学が生んだ青色の王様!銅フタロシアニンを合成してみた。

〈実験〉有機合成化学・顔料化学


みなさんこんにちは。
今日は顔料合成として銅フタロシアニンを合成していきたいと思います。分子全体として結合が強固なので紫外線等の影響を受けて色褪せることがなく、水や多くの有機溶媒に溶けないので青色顔料として最も広く用いられている物質です。そんな優れもの顔料をフルスクラッチしていきましょう。

●青色顔料について
顔料は古くから絵画などを描くのに必要でその中でも特に青色は原色として重要です。化学の前代、錬金術時代には腐らせた動物の内臓と草木の灰汁を錆びた鉄鍋で煮ることによって紺青色の沈殿を得ていました。これがプルシアンブルーです。動物の内臓にはタンパク質由来の窒素と血液由来の鉄が豊富ですからね。ヘキサシアニド鉄(Ⅱ)酸カリウムに鉄(Ⅲ)イオン、またはヘキサシアニド鉄(Ⅲ)酸カリウムに鉄(Ⅱ)イオンを加えると紺青色沈殿が生じるのは高校化学の教科書に出てくる反応ですね。この青色は「シアン」という三原色の1つの由来でシアン化カリウムが別名青酸カリと呼ばれるのもこれに由来します。プルシアンブルーが使われている絵画としてはフィンセント・ファン・ゴッホの星月夜が有名でしょう。

ところでプルシアンブルーは青色としての鮮やかさが微妙で色がとても濃いためもっぱら色調が暗くなってしまいます。そこでより色鮮やかな青色としてウルトラマリンブルーが使われました。ウルトラマリンブルーはラピスラズリという青い宝石から得られる顔料で金よりも高価です。そんな貴重な顔料をふんだんに使用したのがヨハネス・フェルメールです。彼の代表作「真珠の耳飾りの少女」の印象的な青いターバンにはウルトラマリンブルーが使われています。
しかしウルトラマリンブルーは酸性に弱く硫化水素を発生させながら退色してしまい安定性という面ではあまり優れたものではありません。また高価な割に顔料としての着色力がイマイチでした。そんな中に化学の力を持ってして生まれた青色の王様が乗り込んできます。フタロシアニンブルーです。別名銅フタロシアニンと呼ばれるフタロシアニン骨格に銅イオンがキレートされた構造を持つ分子で非常に安定性が高いため今現在最も広く使われている青色顔料でもあります。

光学的特性が豊富なことから顔料だけでなくさまざまな機能性製品の材料としても使われています。

●銅フタロシアニンの合成について
銅フタロシアニンは無水フタル酸、尿素、塩化銅を加熱して得られます。無水フタル酸と尿素からイミジンを経て4分子が縮合し、銅イオンをキレートする形で安定な錯体を形成します。この反応は七モリブデン酸六アンモニウムによって触媒されます。


●実験
※注意
無水フタル酸は刺激性を有します。塩化銅(Ⅱ)二水和物は重金属毒性を有します。ヘキサンは慢性毒性を有します。アセトン、エタノールは引火性を有します。いずれの試薬も薬傷、失明の危険性があり、重篤な事故につながる恐れがあります。安易な真似は控えてください。実験者は白衣、保護眼鏡、手袋を着用し、必要に応じて局所排気設備を使用しています。

◆材料◆
・無水フタル酸
・尿素
・塩化銅(Ⅱ)二水和物
・七モリブデン酸六アンモニウム
・流動パラフィン
・ヘキサン
・エタノール
・アセトン

◆器具・装置◆
・500ml丸底フラスコ
・クライゼンアダプタ
・ガラス管
・ゴム管
・ガラス漏斗
・乳鉢
・マントルヒーター
・吸引ろ過器
・水流式アスピレーター

① 無水フタル酸20gと尿素27gを乳鉢でよく混ぜ合わせる。
 

② 塩化銅(Ⅱ)二水和物5.8gと七モリブデン酸六アンモニウム0.1gを加えてよく混ぜ合わせる。
  

③ 500ml丸底フラスコに移して流動パラフィン60mlを加える。


④ 反応装置を組み立て、200℃で2時間加熱する。フタルイミドの生成とともに色が青色へ変化する。ヒュームやアンモニアが発生するのでトラップする。
  

⑤反応後、内容物をビーカーに取り出してヘキサン50mlに懸濁する。吸引ろ過し、パラフィンを洗い流す。これを2回行う。
 

⑥ 得られた銅フタロシアニンをエタノール150mlに懸濁して加熱する。吸引ろ過して未反応分を除く。


⑦ 吸引を続けながらアセトンで数回洗浄する。


⑧内容物を乾燥させる。銅フタロシアニンが得られた。収率は84.59%であった。


めでたく銅フタロシアニンが得られました。予想以上に上手くいきました。水にも有機溶媒にも溶けないので回収は楽でした。微量でもかなりの着色力と発色性を有するので取り扱いには要注意です。無意識のうちにありとあらゆるものが青く染まります。それでは次回の実験までさよなラジカル。

えざお
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