【第15回おうちラボで実験してみた】有機合成でうんこの匂いを作ってみた〈スカトールの合成編〉

〈実験〉有機合成化学

みなさんこんにちは。
いよいよこの長期有機合成プロジェクトの最終回です。今回行うFischerインドール合成のために必要な基質を長い道のりで合成して参りました。それらが今集結しうんこの匂いが作られようとしています。感動ですね。それではいつもの如く反応をさらっと説明します。

●反応について
反応機構は以下です。結構複雑ですので順を追っていきます。

まずプロトン化したアルデヒドのカルボニル基にフェニルヒドラジンの窒素が求核付加します。生成したヒドロキシ基はさらにプロトン化を受け、窒素から孤立電子対を流されて水として脱離、窒素からプロトンが脱離してヒドラゾンが生成します。ヒドラゾンのイミノ基の窒素は再度プロトン化され、互変異性によってエナミンが生成した後[3,3]-シグマトロピー転位という反応が起こり結合の位置が変化します。このときベンゼン環はσ結合形成に電子を差し出してるので芳香族性を失います。芳香族性を再生させるためプロトンを切り離し、芳香環直結の窒素がプロトンを受け取り、この窒素がイミノ基に求核付加します。生成した第一級アミノ基は隣の窒素からプロトンを引き抜き、アンモニアとして脱離し、最後にプロトンが脱離してインドールが形成されます。

●実験
※注意
フェニルヒドラジンは皮膚粘膜刺激性と発癌性を有します。プロピオンアルデヒド、N,N‐ジメチルホルムアミド、硫酸は皮膚粘膜刺激性を有します。エタノール、2‐プロパノールは麻酔性と引火性を有します。ジクロロメタンは麻酔性と皮膚毒性を有します。いずれの試薬も薬傷、失明の危険性があり、重篤な事故につながる恐れがあります。安易な真似は控えてください。実験者は白衣、保護眼鏡、手袋を着用し、必要に応じて局所排気設備を使用しています。

~材料~
・フェニルヒドラジン
・プロピオンアルデヒド
・12%硫酸
・N,N‐ジメチルホルムアミド
・エタノール
・2‐プロパノール
・ジクロロメタン
・炭酸ナトリウム
・モレキュラーシーブ3A

~器具・装置~
・100ml丸底フラスコ
・250ml丸底フラスコ
・分液漏斗
・駒込ピペット
・ジムロート冷却器
・マグネチックスターラー
・ロータリーエバポレーター
・冷却水循環装置
・ドラフトチャンバー

① フェニルヒドラジン2.52gとプロピオンアルデヒド1.43gをフラスコに入れてエタノール10mlで洗いこむ。室温で30分ほど攪拌する。


② N,N-ジメチルホルムアミド20mlと12%硫酸10mlを加えて110度で3時間還流する。


③ 還流後ロータリーエバポレーターで溶媒を留去する。


④ 反応液を氷に注いで水との混合物をジクロロメタン30mlで3回抽出する。
 

⑤ モレキュラーシーブ3Aで乾燥後、有機層をロータリーエバポレーターで溶媒留去する。
 

⑥ 濃縮後、水を加えて晶析を行う。


⑦ 駒込ピペットで褐色の油状物質が混入しないように乳白色の液体をフラスコに移し替える。


⑧ 多量の2‐プロパノールに溶かし込んでロータリーエバポレーターで濃縮する。共沸で水分を飛ばす。
 

⑨ 溶媒留去後しばらく放置すると結晶が析出する。スカトールが得られた。


めでたく長い道のりを経てスカトールを合成することができたわけですが、正直期待していたほどの悪臭はありません。ほのかな畑の肥やし臭がします。合成に失敗したのか鼻が馬鹿になったのか真偽は不明ですが、合成が死ぬほど大変だったのでもうマジでこの際なんでもいいです。ちなみに実際科学部の後輩に嗅がせてみたところ「直接的でないにしろ公衆便所を腐らせたような匂い」と謎のコメントを頂きました。成功してるっぽい雰囲気ではあります。はて、うんこの匂いのためにそこまで情熱を注ぐ必要があるのかはよくわかりませんが、達成感はあります。それでは次の実験までさよなラジカル。

えざお
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