【第15回おうちラボで実験してみた】有機合成でうんこの匂いを作ってみた〈合成ロードマップ編〉

〈座学〉有機合成化学
みなさんこんにちは。
今回は全6回に分けた有機合成プロジェクトを行いたいと思います。合成するターゲットはスカトールです。
名前からお察しの通り「うんこ」の匂いとしても有名です。高濃度であれば大便臭(チオールと混ぜると最悪)ですが、低濃度だとジャスミンやオレンジの香りにもなります。何故うんこにスカトールが入っているかというと腸内細菌の働きでアミノ酸の一つであるトリプトファンが代謝されるからです。トリプトファンもインドール骨格を有しています。
 
合成の目的としては単純に悪臭物質を作って他人、特に科学部の後輩に嗅がせてみたいからです。それでは早速どのような経路で合成していくか説明します。
※この長期有機合成プロジェクトにおける記事は全編を通して説明に便宜上めちゃくちゃ専門用語やら構造式を使います。化学が得意な高校生?理系大学生を対象に書くので、有機化学が1mmもわからん人は「ふーん」程度に流しても大丈夫です。化学に少しでも興味のある人は用語を一つ一つ調べてみると理解に繋がり、さらに面白く感じるかもしれません。

●合成方法について
今回合成するスカトールはもろインドールなのでFischerインドール合成を利用します。Fischerインドール合成は酸触媒存在下でフェニルヒドラジンとアルデヒドを反応させることでインドール骨格を形成させるものです。

原料としてフェニルヒドラジンとアルデヒドが必要です。アルデヒドに関してスカトール合成にはプロピオンアルデヒドを使います。
しかしこれらは入手しづらいため自身の手で合成する必要があります。おうちラボ勢の辛いところでもあり醍醐味でもあります。そこで今回はより単純な有機分子からの合成を目指して以下で紹介するロードマップにて実験を行いたいと思います。

●フェニルヒドラジンの合成

フェニルヒドラジンの出発物質はベンゼンです。ベンゼンを混酸(濃硝酸と濃硫酸の混合物)でニトロ化してニトロベンゼンとし、ニトロ基を金属と酸で還元してアミノ基に変換してアニリンにします。アニリンを塩酸酸性下で亜硝酸ナトリウムと反応させてジアゾ化すると塩化ベンゼンジアゾニウムが生成し、これを塩化スズ(Ⅱ)塩酸溶液で還元するとフェニルヒドラジン塩酸塩が得られます。これに水酸化ナトリウムを加えると弱塩基遊離反応によってフェニルヒドラジンが得られます。

●プロピオンアルデヒドの合成

アルデヒドは高校化学でも習う通り第一級アルコールの酸化によって生成します(さらに酸化させるとカルボン酸が生成)。
今回使うプロピオンアルデヒドは1-プロパノールの酸化によって生成します。酸化剤には硫酸酸性二クロム酸カリウムを使っていきたいと思います。

●合成ロードマップまとめ
以上の原料合成とスカトール合成のロードマップをまとめると以下のようになります

長旅になるとは思いますが一段階ずつゆっくりと着実に実験を行えば辿り着けないわけではないと思います。
それでは実験編までさよなラジカル。

えざお
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