【第13回おうちラボで実験してみた】ジアゾカップリングで酸塩基指示薬を合成してみた。

〈実験〉有機合成化学

みなさんこんにちは。
今回はジアゾカップリングを用いてメチルオレンジを合成していきたいと思います。ジアゾカップリングの反応については第8回の座学編で詳しく解説しているので原理の説明は省きます。以前合成したオレンジⅡが合成染料として利用されるのに対して今回合成するメチルオレンジは変色域が酸性寄りの酸塩基指示薬として利用されます。このへんは高校化学の教科書にも出てきますね。

●酸塩基指示薬について
そもそも何故pH、すなわち水素イオン濃度によって物質の色が変わるのでしょうか。前提として色のある有機化合物は大抵「共役系」という構造を持っています。これは単結合と二重結合が交互に繋がっている構造でπ電子が非局在化しています。この構造は特定の可視光領域の光をよく吸収するため残りの波長部分が補色として強く発色します。共役系がよく表れているものの例として緑黄色野菜の色素でもあるβ-カロテンなんかがあります。


そしてメチルオレンジやメチルレッドなどのアゾ染料にも共役系が表れていることがわかります。2つのベンゼン環とそれを繋ぐアゾ基で見事な共役系が形成されているのです。
 

これらを酸性の液体に入れるとアゾ基に水素イオンが付加します。共鳴構造を見ると共役系が短くなっていることがわかります。


これに塩基を加えて中和すると水素イオンが脱離して元に戻ります。共役系の長さが変わると吸収する光の波長も変わるので色に大きく影響します。そのため水素イオン濃度によって色が変化するのです。

●メチルオレンジについて
メチルオレンジ合成についてカップリングを行うための2つの原料はスルファニル酸とN,N-ジメチルアニリンです。以前合成したオレンジⅡはスルファニル酸のお相手が2-ナフトールでしたね。N,N-ジメチルアニリンもジアゾニウムイオンによって同様の芳香族求電子置換反応を起こします。第三級アミノ基は電子供与性ですからパラ位に置換します。


それでは早速実験してみましょう。

●実験
※注意
スルファニル酸は眼刺激性を有します。N,N-ジメチルアニリンは経皮吸収性・粘膜刺激性を有します。亜硝酸ナトリウムは皮膚粘膜刺激性を有します。濃塩酸は皮膚粘膜刺激性・腐食性を有します。水酸化ナトリウムは強塩基性で皮膚粘膜腐食性を有します。いずれの試薬も薬傷、失明の危険性があり、重篤な事故につながる恐れがあります。安易な真似は控えてください。実験者は白衣、保護眼鏡、手袋を着用し、必要に応じて局所排気設備を使用しています。

◆材料◆
・スルファニル酸
・N,N-ジメチルアニリン
・亜硝酸ナトリウム
・濃塩酸
・炭酸ナトリウム
・塩化ナトリウム
・エタノール

◆器具・装置◆
・ビーカー
・駒込ピペット
・試験管
・氷浴
・ブフナー漏斗
・吸引ろ過瓶
・水流式アスピレーター
・マグネチックスターラー
・ウォーターバス
・乾燥機
・ドラフトチャンバー

① スルファニル酸2.9gに炭酸ナトリウム0.9gを水35mlに溶かす。
 

② 亜硝酸ナトリウム1.3gを試験管にとり、水5mlに溶かす。


③ 水15mlにN,N-ジメチルアニリン2.0gと濃塩酸2mlを加えてN,N-ジメチルアニリン塩酸塩を作る。


④ ①~③の溶液を氷浴でよく冷却する。


⑤ 氷浴で冷却を続けながら①の溶液に濃塩酸4mlを加える。


⑥ 撹拌しながら②の溶液を駒込ピペットで少しずつ加えていく。ジアゾ化が完了する。


⑦ ③の溶液に⑥の溶液を攪拌しながら加える。溶液が橙色になる。
 

⑧ 1.0mol/L水酸化ナトリウム水溶液を赤褐色になるまで加えてナトリウム塩を生成させる。


⑨ 80度のウォーターバスで加温して塩化ナトリウム20gを加えて塩析する。
 

⑩ 沈殿を吸引ろ過で回収し、塩化ナトリウム水溶液で洗浄する。その後少量の冷水で洗浄する。


⑪ 乾燥機で十分に乾燥させ、橙色粉末を得る。収率は97.3%であった。


⑫ 少量のメチルオレンジを水に溶かす。

⑬ 液性の異なる水溶液が入った試験管にそれぞれメチルオレンジ水溶液を加えて色を確認する。


メチルオレンジの合成及び液性による色の変化を確認することができました。やはりジアゾカップリングの実験は基質のバリエーションが豊富であり、色が綺麗で飽きませんね。カップリングで2液を混合したあとに強烈に発色する様はいつ見ても印象的です。それでは次回の実験までさよなラジカル。

えざお
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