【第9回おうちラボで実験してみた】理系が本気でキムワイプをおいしくしてみた。

〈座学〉高分子化学・生化学・材料化学

みなさん、キムワイプという商品をご存知でしょうか。日本製紙クレシアさんが製造する理系の人なら誰もがお世話になる実験用ティッシュのことです。

このキムワイプは通常のティッシュとは異なり毛羽立たず、パルプくずが出ないため実験器具や装置など精密さを要する場面の清掃に用いられ、なおかつパッケージのデザインも美しいことから長年理系から愛され続けています。

キムワイプは愛されすぎるがあまりキムワイプ卓球などというスポーツさえ生まれてしまいました(筆者の文化祭でも過去行われたことあり)。キムワイプ卓球は今やオリンピック競技種目になるのではないかと言われているかもしれません。

さて、ここでキムワイプ愛が偏った例をご紹介しましょう。みなさんこんな言葉をご存知でしょうか。
「キムワイプおいしい」
なんとキムワイプがおいしいらしいのです。
いやいやいや、ヤギかよ。
研究室の非常食という話も聞きます。そんなわけがないと筆者は半信半疑でキムワイプを口に含んだことがあります。気になるお味は…劇的においしくないのです。口に含んだ瞬間水分が吸収され不溶性のパルプ感が不快で不快で仕方なかったのです。正直悔しかったです。巷ではあんなにも理系グルメとしてら囁かれているキムワイプをおいしく頂くことが出来ないなんて。それは自分が未熟だからだと悟りました。そして今回キムワイプを本気でおいしくしようと誓いました。キムワイプマンの名にかけて。

●比較的まじめな理論のお話
ここからは普通の化学です。
キムワイプはご存知の通りパルプから出来ています。パルプの主成分はセルロースなので今回はこのセルロースを加水分解することで糖に変換し、甘くおいしくいただこうという作戦です。
セルロースはβ-グルコースが1,4-グリコシド結合によって連なった高分子で化学的にとても安定です(第6回座学編参照)。この長い分子鎖を加水分解で断ち切るにはセルラーゼ酵素か酸を用いた加水分解しかありません。セルラーゼはセルロースをセロビオースという二糖類まで分解してくれます。さらにセロビアーゼを作用させるとグルコースにまで分解されます。
酸加水分解の場合は一気にグルコースまで加水分解されます。今回は糖化率、分離精製、操作の簡便さ、食用目的などを考慮してセルラーゼを用いて生化学的アプローチを行うことにしました。セルラーゼは浴衣などの毛羽を取り除く繊維分解酵素として市販されていました。
次に実験プロトコルの紹介をします。

●実験プロトコル
キムワイプは前述の通りパルプ加工時に殆どのリグニンが取り除かれている高品位のセルロースなので特に化学的処理を施さなくても良さそうです。
以下手順。
① できるだけ細かくキムワイプを破砕する。
② 調整したセルラーゼ溶液に懸濁させる。
③ 50度の最適温度で2週間インキュベートする。
④ 得られた糖化液を濃縮する。
⑤ キムワイプ由来の糖が得られる(はず)。
以上が手順です。
実際に上手くいくかわかりませんが実験してみましょう。もし成功すればキムワイプ界隈の快挙となり得るでしょう。
そのときにはこのキムワイプ由来の糖を「キムオース」と名付けます。

それではキムワイプおいしい実現化計画実施までさよなラジカル。

えざお

〈実験編はこちら〉
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