【第8回おうちラボで実験してみた】ジアゾカップリングで合成染料を作ってみた。

〈座学〉有機合成化学・染色化学

みなさんこんにちは。
今回は高校有機化学にも登場するジアゾカップリングで染料を合成していきたいと思います。この染料はアゾ染料と呼ばれ、鮮やかな暖色系の発色が特徴的です。有機化学実験の中でも視覚的にも美しく魅力的な実験です。
実はこの実験、本来なら高校の科学技術実習でやるはずで僕自身すごく楽しみにしていたのですがコロナウイルスの影響で休校になってしまい、出来ず終いでした。せっかく手元に材料が揃ったので無念を晴らす意味でも自宅でジアゾカップリングをやってしまいましょう!いつもの如く基礎知識から紹介します。

●ジアゾ化について
さきほどからジアゾカップリングと口々に言っていますが、実はジアゾ化とカップリングに分けることができます。
芳香族アミンを酸性条件下で亜硝酸ナトリウムと反応させてジアゾニウム塩を生成させることをジアゾ化といいます。代表的な芳香族アミンとしてアニリンを例に反応機構で説明します。


ジアゾ化には本来亜硝酸を使用しますが亜硝酸は非常に不安定でそのまま扱うことができません。よって反応系内で発生させます。亜硝酸ナトリウムに塩酸を反応させると弱酸遊離によって亜硝酸が遊離します。亜硝酸はオキソ酸なのでプロトンが付加して脱水し、ニトロソニウムイオン(NO⁺)が生成します。
続いてニトロソニウムイオンは非共有電子対を持つアニリンの窒素原子と結合を形成します。その後結果的にアミノ基の水素原子とニトロソニウムイオン由来の酸素原子は脱水のような形で脱離します。これによって生成するのがベンゼンジアゾニウムイオンです。反応系内には塩化物イオンが存在しているので塩化ベンゼンジアゾニウムという塩として存在することになります。ジアゾニウム塩は温度に弱く、5度以上で分解するので必ず冷却しながら反応させます。

●カップリングについて
カップリングとは2つの化合物を混合させて選択的な結合を形成させることをいいます。本来は遷移金属触媒などを用いますがジアゾカップリングは触媒反応ではなく、求電子置換反応で、ジアゾニウム塩とフェノール類を用います。ここではフェノールを例として説明します。


最終的にフェノールに対してジアゾニウム塩で芳香族求電子置換反応を起こしたいわけですがこのままではあまり反応性が高くありません。フェノールのOH基は電子供与基でオルト-パラ配向性を生みますが、OH基を完全に電離させフェノキシドイオンとすることで電子供与性がさらに強くなりそれに伴いオルト-パラ配向性も強くなり反応性が上がります。


このときパラ位が最も電子密度が高いのでジアゾニウムイオンはそこで求電子置換反応を起こします。このように反応性を高めるという操作によって2つの化合物を混合するだけで反応させるカップリングが可能になるのです。そしてめでたくアゾ基(-N=N-)を持つp-フェニルアゾフェノール(p-ヒドロキシアゾベンゼン)が生成しました。アゾ基を持つ染料だからアゾ染料なのです。
以上のジアゾ化・カップリングをまとめてみましょう。


●今回合成するアゾ染料について
例ではわかりやすくアニリンとフェノールからなるp-フェニルアゾフェノールを紹介しましたが、今回はスルファニル酸と2-ナフトールからオレンジⅡと呼ばれる染料を合成します。
 

反応の原理自体は上と同じです。


2-ナフトールのOH基のパラ位と求電子置換反応することは構造的に不可能なので今回の場合オルト位に置換します。

●染色について
そもそも何故染料は繊維に対して色をつけることができるのでしょうか。それは繊維の分子と染料の分子同士でファンデルワールス力がはたらくからです。今回のオレンジⅡを例にとるとオレンジⅡのスルホ基は繊維中のアミノ基とイオン結合を形成、オレンジⅡのヒドロキシ基は繊維中のカルボニル酸素と水素結合を形成します。

さて今回はジアゾカップリングについて反応機構をメインに説明しました。高校有機化学ではここまで説明されませんが、一体どんなことが起こっているのかわかってもらえれば御の字です。
それでは実験編にて実際にオレンジⅡを合成してみましょう。
次回の記事までさよなラジカル。

えざお

〈実験編はこちら〉

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